政策提言③障害あるお子さんに対する療育の充実

児童発達支援と放課後等デイサービス|橿原市議会議員いのうえごう井ノ上剛

複数回に分けて、橿原市に対する政策提言を行います。

第3回の政策提言テーマは「障害あるお子さんに対する療育の充実」です。障害福祉サービスとしての児童発達支援、放課後等デイサービス制度の課題を明らかにしつつ、療育施策の充実について具体的に提言します。

同じ内容を動画でも説明しています。

児童発達支援と放課後等デイサービス

障害あるお子さんへの療育支援は、可能な限り低年齢時に開始するのが有効であると考えられています。行政が給付費を負担する障害福祉サービスとしては、「児童発達支援」、「放課後等デイサービス」の2種類の施設が該当します

児童発達支援は小学校入学前、放課後等デイサービスは高校卒業前のお子さんを対象としています。いずれも通所型の施設であり、個々のお子さんの状況に応じた療育支援を行っています。

政策提言③障害あるお子さんに対する療育の充実1

近年、これら2種類の施設数が全国的に急増しています。2012年から2022年の10年間で比較すると、児童発達支援は2106施設から10447施設へ約5倍、放課後等デイサービスは2887施設から19269施設へ約6.6倍増加しています。

他の福祉系施設と比較すると、この伸び幅は顕著です。その理由として、支援を必要と考えるご家庭のニーズが広がり、また低年齢時からの施設活用を推奨する社会情勢があるとも考えられます。

しかしその一方で、営利を目的としたコンサルティング会社やフランチャイズ事業者が、サービス品質を度外視して施設数を増やしていることが社会問題化しています。

制度の前提として、個々のお子さんに適切な支援計画を立てて療育を行う必要があるのに、実際には単にDVDを見せるだけ、ゲームをさせるだけ、ピアノ・絵画・運動を教えるだけ、といった療育効果の疑われる施設が多数存在することが指摘されています。

政策提言③障害あるお子さんに対する療育の充実2

厚生労働省の制度改正議論の中では、「これらの施設は公費負担による支援としては相応しくない」と明言されました。

5領域の支援計画

このような背景のもと、令和6年度に「児童発達支援」、「放課後等デイサービス」に対して、運営基準を大幅に厳格化する制度改正が行われました。詳しくご説明します。

先ほど「療育効果の疑われる施設が多数存在する」とご説明しました。令和6年度からは、療育に関連する5つの領域として、「健康・生活」「運動・感覚」「認知・行動」「言語・コミュニケーション」「人間関係・社会性」全てを含めた総合的な支援計画が必要となります。

政策提言③障害あるお子さんに対する療育の充実3

これらを児童福祉業界では「5領域の支援計画」と呼んでいます。令和6年度からは、「5領域の支援計画」への対応ができていない施設に、報酬の減算措置を講じることで、業界の淘汰を促しているわけです。

このコラムをお読み頂いている保護者の方には、お子さんの通われている施設が「5領域の支援計画」に対応しているか確認されることをお勧めします。

政策提言(障害あるお子さんに対する療育の充実)

ここまでご説明した通り、「児童発達支援」、「放課後等デイサービス」では今後、業界淘汰が進むことが見込まれますが、実際のところその改善速度はそれほど速くないと予測します。その理由としては業界を取り巻く行政機関の構図にあります。具体的にご説明します。

お子さんがどのような施設に通うべきかの決定と、事業者に対する給付費の支給は市町村が担います。当然橿原市もその責務を担っています。

一方で施設の設置、監督の権限は都道府県にあります。政令市と中核市にはその権限が委譲されているため、奈良県内で言うと12市のうち奈良市だけが権限を持ち、その他の市町村では施設に対する監督権限はすべて奈良県庁が担います。しかし県庁の担当部署の人数には限りがあるため、施設に対する監督が十分に行えているとは言い難いのが実情です。

政策提言③障害あるお子さんに対する療育の充実4

このような体制であるため、橿原市はお金を出すだけで、その用途が適切かどうかの監督が不十分であるわけです。

私の政策提言は、橿原市において独自の施設監督制度を導入し、障害あるお子さんに対する療育支援が適切に行われているかどうかを、点検することにあります。この部分に要する職員人件費については、その一部を県に要望することも有効な手段であると考えます。

この政策が実現できれば、障害あるお子さんに対する低年齢時からの療育支援が適正化され、その後の発達に大きな効果が期待できます。障害福祉サービスが営利企業による利益追求の場にならないことを心から願いつつ、実際の議会の場で提言して参りたいと思います。

最後までご視聴頂き誠にありがとうございました。

【この記事の執筆者】

井ノ上剛(いのうえごう)
◆プロフィール
 奈良県橿原市 1975年生まれ
 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒

◆奈良県橿原市議会議員/井ノ上剛(いのうえごう)公式サイト
◆介護職員実務者研修修了
社会保険労務士、行政書士

(執筆の内容は投稿日時点の法制度に基づいています。ご留意ください。)