令和4年9月議会報告

橿原市での国体主会場設置に向け、奈良県と橿原市が協議再開

昨年(令和3年)11月、残念ながら反対多数で白紙撤回となった県営橿原公苑と市営橿原運動公園の一体整備案。「橿原市での国体開催断念か?」そのように沈滞したムードが漂っていたところ、本年8月、荒井知事と亀田市長による協議再開が発表されました。この協議再開は、奈良県中南和地域のスポーツ・経済振興にとって大きな転機と言えます。これまでの経緯を簡単に振り返ってみましょう。

奈良県では令和13年の国体開催が予定されています。昭和59年のわかくさ国体以来、実に47年ぶりの開催です。奈良県は国体開催を機に、劣化の進む県内のスポーツ施設を充実させたいと考え、橿原市も橿原運動公園内の各施設の劣化問題に苦慮しているところでした。そこで、奈良県と橿原市は県営橿原公苑(約10ヘクタール)と市営橿原運動公園(約30ヘクタール)を一体的に整備することに合意し、その手法について協議してきました。橿原市内にある県営・市営2つの大規模公園を、県と市が別々に整備・維持管理するのではなく、重複を避け効率的に整備するという手法です。当初議論されたのは、大規模施設を面積に余裕のある橿原運動公園側に集約し、市民利用を目的とした中規模施設を橿原公苑側に集約するという案。そのために県営橿原公苑と市営橿原運動公園の土地所有権を交換するという「全部交換案」が検討されました。面積だけで比較すると一見橿原市に不利に見えますが、差額を県が金銭補償し、かつ橿原市が今後単独で進める必要のあった周辺道路等の整備費用も県が補助するという、橿原市に有益な案であったと言えます。

私もこの整備案には関心を寄せ、推進に賛成して来ましたが、令和3年11月橿原市議会において否決され白紙撤回。国体主会場が橿原市以外となる可能性が生じ、また劣化の進む橿原運動公園を市単独で44億円以上の予算をかけて整備していく必要も生じました。それから約9カ月。沈滞するムードが一気に打開されたのが、令和4年8月22日の「市スポーツ施設の活用及び整備等に関する特別委員会」でした。

亀田市長の報告によりますと、昨年否決された案を一部縮小する方向で奈良県との協議を再開したとのこと。現段階で計画の詳細は定まっていませんが、私としても大きな期待を寄せています。国体主会場の誘致は、橿原市および奈良県中南和地域の発展に寄与するだけでなく、長期視点では橿原市の財政支出を大きく削減できる可能性があります。亀田市長の粘り強い交渉力に大いに期待しています。

年月当事者出来事
令和元年6月荒井知事 県議会での質問に答える形で、「県営橿原公苑と市営橿原運動公園を一体的に整備したい」と答弁
令和2年8月荒井知事 & 亀田市長県と市のスポーツ拠点の一体的整備について覚書締結
同年12月奈良県 → 橿原市市営橿原運動公園と県営橿原公苑の一体的整備についての「奈良県の考え方」を示す
令和3年6月橿原市 → 奈良県市営橿原運動公園と県営橿原公苑の一体的整備についての「橿原市の考え方」を示す
同年11月橿原市議会「全部交換案」反対多数により断念。(賛成11:反対12)※井ノ上は賛成側
令和4年8月荒井知事 & 亀田市長「全部交換案」を縮小した方式による協議再開を合意
令和13年奈良県国体開催予定

医大新駅&八木西口駅 併存へ

近鉄八木西口駅と畝傍御陵前駅の中間に、仮称「医大新駅」を整備する方向で近鉄・奈良県・橿原市が協議を重ねてきました。医大新駅の設置予定場所は、高田バイパスと近鉄線が交差する地点です。新駅周辺には医大新キャンパス開設も予定されていることから、橿原市議会としても特別委員会を設置し、新駅周辺の街づくり計画について日々議論を重ねているところです。ここで懸案となるのが大和八木駅から400m南に位置する八木西口駅の存続問題。医大新駅が設置されると、八木西口駅から800m南の位置となり、近接した区間に複数の駅が並ぶ形になります。近鉄・奈良県・橿原市は協議を重ねてきましたが、令和3年2月、近鉄はとうとう「八木西口駅を残したままでは医大新駅の設置はできない」との考え方を示し、八木西口駅の廃駅の可能性が一気に高まりました。

八木西口駅は近隣住民の生活に欠かせない駅であることはもちろんのこと、重要文化財が多数残る今井町への観光玄関口、市役所本庁舎の最寄り駅としても重要な拠点駅です。近鉄が「医大新駅と八木西口駅の併存不可」との考え方を示した後も、橿原市議会では八木西口駅存続のために近鉄と粘り強く協議を続けるよう、亀田市長を通じて要望を繰り返して来ました。この間、橿原市がまとめた分析結果によりますと、経済効果は以下の通りでした。

  医大新駅〇 八木西口駅× 医大新駅〇 八木西口駅〇 医大新駅× 八木西口駅〇
年間税収(都市計画税・固定資産税) 1億4800万 2億3600万 8400万
費用便益比※ 0.85 1.18 0.45

※費用便益比は生じるメリットを数値化し、総費用で割って計算。1以上だと「効果がある」との判断になります。(国土交通省マニュアルによる)

これらのデータを元に近鉄・奈良県・橿原市が協議を重ねた結果、本年7月近鉄は「医大新駅整備後も八木西口駅を存続させる」旨を発表しました。まさに急転直下の決定でした。一定の乗降者のある駅を廃止することは都市計画に重大な悪影響をもたらす可能性があっただけに、私もひと安心しています。荒井知事と亀田市長の尽力に、心から敬意を表したいと思います。

年月当事者出来事
平成27年9月近鉄&奈良県&橿原市医大新駅設置に向けた合意
平成29年10月八木西口駅近隣自治会 → 橿原市八木西口駅存続を求める要望書
令和3年2月橿原市 → 近鉄医大新駅と八木西口駅の併存を要望
同月近鉄 → 橿原市八木西口駅を残したまま、医大新駅の設置はできない旨回答
令和3年6月橿原市 → 医大病院来院者医大病院への交通アクセスについてのアンケート
令和4年7月近鉄 → 奈良県八木西口駅と医大新駅の併存を発表

橿原市役所本庁舎 解体決定

令和4年3月議会。設計費用2000万円の予算通過により、築61年を迎える橿原市役所本庁舎の解体が正式に決定しました。平成8年「耐震補強が必要」と診断されてから、実に25年以上もの歳月を要しました。この間、分庁舎(ミグランス)への全部移転計画がホテル誘致のため部分的移転(全体の約4割)となったり、また現地での建替計画が予算2割オーバーのため中止となったりと、紆余曲折がありましたが「市民・職員の生命の安全確保を何よりも最優先する」という市長の決断により、橿原市役所本庁舎の早期解体が決定しました。

今後は本庁舎で勤務する課の避難先の検討、避難先候補の耐震診断、本庁舎解体設計の3つ業務を同時並行的に進め、令和5年度のなるべく早い時期に本庁舎解体に着手します。解体工事は概ね8~9カ月かかる見込みです。なお解体後の庁舎再編について亀田市長は「ミグランス(分庁舎)の5階から9階を賃貸しするカンデオホテルとの契約が終了する令和20年、ホテル退去後のフロアに市役所機能を集約化する案」を示しています。今回予算通過した2000万円は、緊急避難措置であると言えます。

今後、本庁舎整備問題については、議決上の大きなハードルをクリアする必要があります。つまり庁舎建替えに関する予算案を起案するのは市長の専権事項であるため、市長が建替えを決意しない限り議案の審議自体が始まりません。継続的なコロナ対策予算が必要な現在、私も早期建替えは不要であると考え、また同調する議員も約半数あります。一方で市役所を他の公共施設へ完全移転するためには、議員3分の2以上の賛成が必要となり、現時点では議案可決の見込みはありません。

結果として、耐震性能を有する庁舎東棟などに市長室および一部の課だけを残し、残りの課は他の公共施設へ移転する形を取らざるを得ないのです。耐震性能を有さない市役所本庁舎の再編問題を考えたときに、この計画が現段階で取り得る最善策であると言えます。

  現地での早期建替え 完全移転
必要議決数 過半数 3分の2以上
議会の状況 予算編成権を持つ市長にその考えはなく、市議の半数も市長に賛同。 令和3年12月議会で市長が市役所移転案を提出するも、3分の2以上の賛同得られず。

結 果
庁舎東棟などに市長室(その他一部)を残し、残りの課は他の公共施設へ移転する
左下が分庁舎、右上がホテル(いずれも市所有)。亀田市長の計画では、ホテル契約が終了する令和20年にホテル部分を庁舎として活用する。
年月市長出来事詳細
昭和36年1月好川三郎市庁舎建築現在地で市庁舎落成
平成8年5月安曽田豊本庁舎耐震診断「耐震補強が必要」と診断される
平成30年2月森下豊分庁舎建築【規模】7400㎡(全17000㎡の約4割移転)
【費用】97億円(ホテル含む20年間の総事業費)
平成31年3月森下豊新庁舎建築基本計画【規模】11500㎡(分庁舎移転分の残り)
【予算】65.7億円
令和2年4月亀田忠彦新庁舎建築基本計画(修正版)【規模】9500㎡(当初計画から2000㎡縮小)
【予算】57.7億円(当初計画から8億円縮小)
令和3年3月亀田忠彦設計事業者より
「予算約12億円(約2割)超過見込み」報告
市長「建て替え計画を中止、再検討したい」
令和3年8月亀田忠彦市長、既存施設活用案を議会に提示【予算】4.2億円
【概要】万葉ホール等、既存施設の活用
令和4年3月亀田忠彦本庁舎解体関連予算(2000万円)市議会通過①本庁舎で勤務する課の避難先の検討
②避難先候補、西館の耐震診断
③本庁舎解体設計業務

令和4年度上半期を終えて

令和4年度上半期は、これまで停滞していた3つの大事業が確実に一歩前進しました。3つの事業とはつまり①国体主会場誘致、②医大新駅設置と八木西口駅存廃問題、③橿原市役所解体問題です。橿原市議会ではこれらの問題に対して賛否両論、活発な議論を交わしながらも橿原市政の前進に向けて取り組んでいます。

最後に令和4年9月議会で井ノ上が市長および関係部局長に対して行った一般質問の要旨をご紹介します。

本市の経済対策(企業誘致と都市計画)

(問) 企業立地推進室の設置目的、設置に至った経緯は。

(答) 新たな企業を呼び込むため、相談できる窓口となり組織横断的に情報共有できる部署が必要であり、令和4年4月に設置した。設置契機は京奈和自動車道の整備である。沿道には県内で平成18年以降245件の企業が増えており、「第2期橿原市まち・ひと・しごと創生総合戦略」の重点施策の基本目標の1つに「京奈和自動車道を活かした企業誘致と起業支援」が位置づけられた。

(問) 特定企業と強い結びつきをするのは問題ないか。例えば同業種、同規模の市外、市内企業が関心を示した場合どうするのか。

(答) 市外からの企業進出は新たな雇用が生まれ人口増加につながる。また投資が行われ経済波及効果により地元の活性化、税収の確保にもつながる。一方、地元企業は地域の宝であり育成・発展は大前提である。地元企業のニーズを捉え、確実に対応することは極めて重要である。それぞれの効果を検討し、判断する必要がある。

(問) どういった業種を誘致のターゲットにしているか。

(答) 多額の初期投資がなされ既存の市内事業者と競合等の影響が少なく、長期間操業により納税や雇用等、様々な相乗効果を地域にもたらす業種がふさわしい。製造業、運送業、情報通信業を中心に進めたい。

(問) 市長の総合見解は。

(答) 現在、多くの自治体が企業誘致に取り組んでいる。本市も担当部署だけでなく、トップセールスによる誘致活動を展開し、製造業に加え、新産業や新技術の開発拠点などの誘致を目指したい。また、大学等の高等教育機関の施設誘致も検討したい。住みやすいまちづくりを目指す中で、しっかりと取り組んでいきたい。

【この記事の執筆者】

井ノ上剛(いのうえごう)
◆プロフィール
 奈良県橿原市 1975年生まれ
 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒

◆奈良県橿原市議会議員/井ノ上剛(いのうえごう)公式サイト
◆介護職員実務者研修修了
社会保険労務士、行政書士

(執筆の内容は投稿日時点の法制度に基づいています。ご留意ください。)